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yuuの一人芝居

yuuの一人芝居

恨の藤戸は流れ星 倉敷公民館ホール公演

                      
          
   恨の藤戸は流れ星

              書き人知らず・信濃前司行長か 
              面白書き手  吉馴  悠

          一場

        スポットの中に初老の男が現れる。              
 遠くに眼差しを投げて・・・
        真言密教の経文読経が流れる中を・・・
        水の落ちる音が断続的に続いている。

       
男  今は昔、遡れば平安時代時代の流れまさに、終焉に向かいて
 下る頃、源氏と平家、平家と源氏相争いて國乱れ、平安とは名ば      
 かりで、政所國民の心歯牙にもかけず、夜を撤しての遊興三昧、            
 心乱れれば國乱れるる理いつの世もつねならむ・・・


  今は昔・・・この穏やかにして温暖なる自然に囲まれし地が、
 殺戮合間見えし藤戸の古戦場とはよほどの博識なるご仁か能や謡
 いに精通してのお人か、はたまた、平家物語 を辛抱強く藤戸の件     
 まで読み砕いたお方でのうてはご存じござるまいて。

  汐入り川を下りて児島湾にながるる水は・・・今も昔も変わる
 まい。変わるは人の心ぞかし・・・。            
     
  一ノ谷で敗走せし平家は讃岐は八島に全軍を集積して源氏を迎
 
え打つ態勢を整へ待つこと暫し。源氏は陸路藤戸へ・・・。備前                
 児島の葦が密生せし浅瀬を挟み対峙せし平家源氏の軍勢・・・。     
 戦いの火蓋は時と所を変え川の流れのように下り行く。

  御存知あろう平安の末期、公家に仕えし武家の台頭。政所の政                 
 変を・・・。崇徳上皇が後白河天皇から覇権を奪い返そうとした
 保元の乱。源義朝と平清盛とが戦った平治の乱。どちらも平清盛                
に幸い。そのふたつの内乱により代わり武家の出の平清盛が 殿上                    
 人になりし事は・・・。清盛は白河法皇に寵愛されし祇園女御の                      
 子。つまり白河法皇の子ということになり、崇徳上皇とは腹違い                
 の兄弟。弟の味方をせずに鳥羽上皇と藤原璋子との間に生まれた                     
 後白河天皇、清盛にとっては甥に味方をして、崇徳上皇を敗った                
 保元の乱。崇徳上皇は璋子と白河上皇との間に生まれ鳥羽天皇が
 育てし子なり。源氏物語のように男女のなかは迷路なり。この逸                       
 話、果たして真実如何なものか。何やら源氏と帝の策略なりか。
 書かれ記されているが定かでなし。
               
  その頃の、公家集達は保身に汲々、あっちにふらりこっちにゆ
らり、との天秤情けなゃ。                 

  時の移ろい所を変えて、栄耀栄華夢結、宴今日も又明日も。「                          
 平家にあらずんば人に非ず」の隆運かな。運も不運も泡沫の、人
 の運命の哀れかな。川の流れと命の花は咲いて散るのが又宿命。        
 平家の隆盛川の泡に海の泡。異変の兆しは福原に遷都を試みしあ
 たりかな。平治の乱にて源氏の血筋おそるべしとて全国に源氏を          
 みな殺しにせよとの命を下すなり。高倉天皇と我が娘徳子との間
 に生まれし後の安徳を連れて福原へ逃げたのも源氏怖しの現れな
 りしか。源氏を桜に例えるならば、桜の下の不気味さを、清盛感
 じて火の海へ、業火に焼かれる肉と魂。神が見捨てし、仏が見離     
 し清盛の骸は黄泉へと昇天す。            


  さてさて・・・。それからが公家の駆け引き、武士の打算。ま       
 んまと踊り脅かされ、真っ赤に染まる川の水。人馬の足音風嵐。
 夜空を焦がす炎上が、鬼火となりて続く日々。哀れをさそう國民
 ょ。縋るよすがもない身なら、都を捨てて北國へ、落ちて流れて                      
 世捨て人。後白河天皇の第二子、高倉天皇の弟、以仁王が平家追    
 討の令旨をば発せらるる。清盛が強引に我が子徳子の子安徳を即
 位させし恨みか。それに応えて、源氏の血筋の木曽義仲。都に上   
 り焼土の地獄と変えてゆく。さながら畜生飢餓の世界なり。心の              
 在り方修羅の門、女子を犯し首を袈き。都大路地は類類の屍の山
 。平治の乱で破れし義朝、その子、伊豆にながされし源頼朝、そ
 の時歳は三十四歳。北条時政が子女政子を妻とし北条一族を後ろ          
 盾に、木曽義仲を駆逐せんと京に上り、雲の子追い散らすが如く
 おさめたり。その戦の先方を努めたのが、頼朝の弟鞍馬で過ごし
 平泉で育った源義経なり。各地に散らばれし源氏の血筋ここに急
 追うし源氏の体勢はここに整へり。


  ここに、平家と源氏合間見え合戦の幕静かに揚がりたるなり。

  さるほどに、今までの口上頭の隅にお届めあれ。

  さてさて・・・。


 一の谷より藤戸への戦の満干き伝えしが、時の勢い源氏に吹き、
 平家は心に風の吹くごとく、涙の雫の溢れたる様いとおかし。
           
 先程も語りし、平家の趨勢、敗れて讃岐は八島へ落ちのびて、軍
 兵整え負の風を押し返し勝の波を頼りに都に攻めゆくかまえと見
 えたり。


          男ここ迄立て板に水の如く喋る。
          ふと考え自分の立場を自覚し・・・。
          舞台袖から「その台本はこの秋に芸文館で公演するもので、
今ここで披露致す
       ると困るではないか。お前は何者だ。」
          男、ハット気づき罰の悪そうな顔。
  
  嗚呼、この私は何をしに現れたのであろうか。先程の皆様の平
 家物語が剰りにも素晴らしく心打ち砕かれ台本にないことを口の
 端に乗せましたるる事・・・。


  ええと・・・ええと・・・。
            
          台本を捲りながら・・・。
          語りの中にだんだんと古語の口調が入りだす         
   ああたった。

  先程、これからいたします「藤戸」が皆様方により心一つにし      
 て朗々と吟られましたが・・・。  


  何をとち狂ったか、この作者。平家物語、源平盛衰記、能の藤
 戸も知らずにここに何やら理屈を並べ、一応は台本の形式を整え
 てはいますが、先程の琵琶法師が語りし正調平家物語に比べれば      
 嘘八百、信濃前司行長が記したると言わるる文学的遺産、宗教的                          
 因果応報教条的なる名作をば、源氏の権力下の産物と一蹴。
              
  さてさて・・・。頑固たること金鋼にも勝り。付き合いたるこ                            
 と三十年を過ぎたれど年々捻くれる事松の幹の如し。何をか況ん
 や、彼の母方は平家の末孫なり。父方は源氏の血筋なり。彼は母                      
 方の血が多く入りたるなり。故に源氏の判官贔屓いと嫌い・・・
 。そんなことはせん無き事。時を戻しここはゆるりと舞台を進め
 、彼の藤戸を披露いたすなり。
         

          男、静かに一礼して・・・。退場するかに見                         
えたが、舞台を一巡する。その間に羽織を脱                         
ぎ、浦の男に代わる。

浦の男  この儂が、源氏の佐々木三郎盛綱に藤戸と児島の間に広                            
 がる海峡の浅瀬を教えたと。ふふん・・・。どうしてこの儂が、
 何故に。

        
  この儂は源氏の公達。鳥羽天皇に迎えられ北面の武士になりけ    
 り。和歌に舞に武芸にと勝れたるものの集まり、天皇をお守りす                         
 るが任務であった。そこにおろう、西行法師。佐藤義清とは、北
 面の武士たる時の西行の名前。


  お前は乱世を予期して仏の道へ・・・。臆病なり義清。女々し
 いぞ西行。女に節操のなかったお前。崇徳、後白河天皇が母、つ
 まり、鳥羽法皇が妃藤原璋子のちの待賢門院に懸想をしての情念                
 未練断ち切れず得度とは・・・。お前の母は卑しい家柄の出、
         
 お前の描いた絵図は余人は騙せても、北面の武士として一緒に寝
 起き食らいしこの儂には通用せぬは・・・。北面の武士と言わば
                          
 、平清盛はすでにその行く道は知っていよう。遠藤盛遠とは袈裟                     
 御前に横恋慕をして身を滅ぼしたる後の荒法師文覚なり。


   この儂が藤戸の浦男として、なぜに佐々木に・・・。お前は
 知っておろう。血筋の誉れを・・・。痛い程骨身に刻まれていた               
 はず。堀川の局が手引きして待賢門院の寝所へ・・・。そのおり
 一度の慰めが、お前の一生の苦しみの種になった事は・・・。血
 筋じゃ。血筋じゃ・・・。この儂には、源氏の血が流れておると
 いうが、それも定かではない。白河法皇が父かも知れぬ。行きず
 りの女房を手ごめにし生まれたるがこの儂かも知れぬ。白河法皇          
 は幾ら女子を妊ましたか。京の巷に類類の兄弟多し。平清盛、鳥
 羽、崇徳、と時代の中で名をなしたるご仁は僅かなるが、名もな         
 く生きた生かされた人は数多しということは存じていよう。

  出でよ、義清、西行。この儂の母は藤原摂関が一門の娘・・。

                
  西行法師、お前は、平清盛とは同歳、北面の武士としては同期                    
 。崇徳上皇とは名じみ多し。平泉の藤原秀衡とは根元は藤原北家
 で一つだが開いたは別。そして歳の開きも遠くない語りに花が咲
 いたであろうな。
 
 そして何より、お前は大の源氏嫌い。讃岐とは縁深いお前。保元

 の乱で破れた崇徳上皇が流されしが、讃岐は直島、松山。崇徳上      
 皇の身を按じ京より身をよじっていたが、崩御の後にその地を訪
 れていょう。崇徳上皇が生前お前を忍んでいたことは知っていよ
 う。が、お前は清盛の目をば気にして動けなかった。それ故に、                              
 お前は真言の開祖弘法大師の誕生寺を拝し、崇徳上皇の怨霊を諫
 めるためにかの地に庵を結びて・・・。そこより備前児島と藤戸        
 は内海をひと跨ぎの地。そのおり・・・。


          女が現れる。
         
女  待賢門院様に使えていた女房でございます。あの頃はほんに                 
 楽しゅうございました。女院様の周りには才媛、美貌、に勝れた                     
 女子が多く、人の妻、人の親でありながら殿方の文にて心惑わさ    
 れ、契りの数はおぼろ月。女房といえば、紫式部、清少納言、和

 泉式部等の文の才女方々はご存じございましょうか。

  少し遡れば「源氏物語」のなかの光源氏は、何やら在原業平を
 想わせて、また、白河法皇を懐かしく感じ。いつの世も変わりま       
 せぬ男と女の睦事は。時変わり、季節は巡れども・・・。 

  知っておりますとも、堀河の局様、中納言の局様が、待賢門院
        
様のご様子を先に得度いたし仏門に入られた佐藤義清、法名を円

 位、通り名を西行法師に語られていたことは。嵯峨の地に法金剛
 院を建立なされそこに住まいて過ごされておられました。また
 、その嵯峨の地に、時を同じゅうして西行法師が庵を結びなされ
 ておいででございました。かの地に法師が女院様への情忘れがた
 く離れまじく訪ねておられました。
          
  そして、女院様がみまかれた後、生涯十二度の熊野詣でをされ

 た女院様の面影を訪ねるように熊野へ・・・。それから、讃岐は            
 松山へ・・・。また、陸奥の國は藤原三代の地平泉へ・・・。そ     
 の目的は能因法師への憧れからか・・・。二百年前に陸奥を旅な                          
 された歌の人、その方の足跡を辿るようにと言うことは和歌の技
 を磨く・・・。ただそれだけのために・・・。いいえ、書状を懐
 に・・・。寺院建立の要請を時の・・・・。役をおえ、それから

 は吉野へ三十年そして伊勢は二見が浦へ庵を結びて・・・。よく
 ぞ至る所に庵を結んだものです。


          男1現れる。


男1  何が言いたいのだ。この私に・・・。お前など知らぬ。北                  
 面の武士とはよくも言えたものだ。和歌の一つも吟じる事の出来
 なかったお前が・・・。

  お前は所詮、漁師の倅。どこで私の生きざまを拾って来たかわ
 かねど、この私は平家の滅亡迄の経緯を最後の庵で終日見守って
 この世で会いし多くの衆生に経をあげて・・。熊野詣でで新しく
 生まれ変りたいと願った、鳥羽法皇や待賢門院様。この私は常に

 北面の武士として随行いたしておったわ。得度いたしてのちも・
 ・・。

 鳥羽法皇崩御の後待賢門院様の熊野詣でには、影になり御供をい

 たした。先のお前の繰り言は確かにあっていたが、この私がこの
 藤戸で何をしたというのか。


          浦の男現れる。浦の男を男に記す。


男  なにが信濃行長が記せし平家物語か。琵琶法師に語らせしは
 、西行お前であろう。源氏嫌いのお前であろう。

男1  何を他愛無き事を。源氏嫌いの私がどうして源氏を立てる
 ような文章を書こうぞ。明らかに「平家物語」は源氏が幕府を開
 いた後に書かれたるもの。その判別も出来ないとは、よほどの無                   
 学の輩か。年若くして早や忘却の道を辿れしか。文覚しかり、清
 盛殿またしかり。才長け、武勇にも勝れたる武士の集団。北面の
 武士とはお前のような軽薄愚鈍の輩の集まりではなかった。お前
 が北面の武士を語るとは情けない・・・。

男  何を御託を並べているぞ。お前は世情に長け上手に世渡りし
 たから七十幾つ迄生きられたのであろうが。保元の乱のおり清盛
 は実弟の崇徳上皇にはつかず世間を上手に渡った。崇徳上皇とは
 待賢門院の縁の方、故に滅び行く崇徳に流したお前の涙膝を濡ら                       
 し、ひととき清盛を憎んだが後は忘れたごとく摺りよっていよう  。

  まあよい、世間は面白可笑しく論じ、また、そう信じようが、
 逆も世には多いぞ。お前が書いたのだ。信濃ではない。源氏が天
 下を開いたときにその権力が書かしたと見せ袈けて・・・。因果
 応報、殿上人は天皇の血筋、との言い訳がのうては天皇家の失態
 明らか。お前はその庇護の元に生かされていたのだからな。ただ

 ただ傍観者を装い、吉野嵯峨二見と庵を結び、放浪行脚の明け暮
 れ、恰好の私感を縦横無尽に膨らませ書くことが出来たのはお前
 を置いてほかにあるまい。

男1  と言うお前は、佐々木に僅かの報奨をもらい浅瀬を教えた
 ・・・。

男  それも、お前の作り話だと言っているのだ。

男1  暗い、暗い・・・。顔を見せい。やはり・・・。

男  なに・・・。

男1  お前は藤戸の浦の男ではないな。

男  この儂が浦の男ではないと。そのことは・・・。


          女現れる。


女  いいえ、こ奴は浦の男でございます。ここに住んで早・・。                     
男1  ではどうして生きておる。佐々木に憚られて殺されている
 はずが・・・。

男  だから言っておろう、最前から・・・。

女  佐々木に殺されたのは、こ奴の妻・・・。

男  なんと、下人は愚か。儂の妻は端た女であった。

男1  では、お前がお前の妻を殺したことになる。・・・己れを
 責め憂い、どうして佐々木を恨まぬ。呪わぬのか。この私に八つ
 当りを投げ掛けるのだ。

女  わかりませぬか・・・。

男1  わからぬ。

女  お戯れを・・・。

男  この儂を知らぬと言うか。ほんに・・・。

女  知っておりましょうぞ。

男1  やはりお前か。

男  そうだ。お前も存じていよう。その儂だ。

男1  今までのことを推移いたすと・・・。やはり・・・。

女  こ奴は・・・。この私が待賢門院様の女房だということは・
 ・・。

男1  崩御の後、ここにおちのびられたか。ここは嘗ての平家の
 領地。尾張守、伯耆守、播磨守、備前守と温暖なる豊饒の地から
 の産物実り多し事はるか。海岸に面し平家日宗貿易の財たるや國
 おも動かす勢いにて天皇に執り入りたること、天皇重宝す。・・
 ・するともしや、その時の忠盛の落し子か・・・。清盛殿とは腹
 違いの・・・。

女  わかりませぬ。はい、いいえ。世の中のことはわからぬ事の
 方が多ございますゆへ。ところで・・・。女院様のお屋敷であな
 た様をよくお見掛けいたし存じておりますぞい。稀にみる美男の
 方・・・。この私など見向きもされなんだ。

男1  あなたが、生みの親に、この私への恨みのために平家物語
 はこの私が書いたと・・・。

男  恨み・真実は曲げられぬ。ゆえにそれは言い掛りでのうては
 ・・・。和歌をよくし文章に長けたお人は・・・。この儂をよく
 見られい。先程からこの儂も北面の武士だといっていようが・・
 ・。

男1  後白河法皇が近臣であった大納言藤原成親と語らって謀反
 を起こそうとした西光か、はたまた俊寛殿か・・・。

男  思い出したか。その西光よ。

女  こ奴はあの時殺されたということになっておりますが、清盛                   
 さまの情けでここに・・・。こうして生恥を晒ております。落ち

 て流れた私を妻にして・・・。生まれたのが、先ほど盛綱に殺さ
 れた端た女・・・。

男1  端た女、その端た女はおまえの妻、ということは、お前の
 娘に手を付けたのか・・・。ややこしくなった・・・。

女  男と女、親と娘・・・。そんなことは・・・。世間ではよく
ありましょう。清盛を憎み浅瀬を教えるはめに・・・。それもまた
・・。因縁因果・・・。

男1  恨んでいたのか白河法皇を・・・。
                    
男  西行、お前は清盛がどうしてもののけが憑くほどの熱病に侵
 されたか知っているか。

男1  お前のしせる業か。また、流罪を許してほしいと乞い願っ
 ていたという俊寛のものか・・・。
           
女  いいえ、この私の呪いでございます。このはかない身の定め
 への復習。いや、源氏の隆運を、清盛に滅び行く様を見せとうな
 いという縁の者の情・・・。

男  清盛が生きていたら平家もやすやすと滅んではなかったと世             
 間は言うが、この儂が謀反を企てようとしたときから、平家に風
 は吹いてなかった。

男1  故に・・・。

          女1の声。

女1の声  恨みまする。ただ恨みまする。母じゃが、この男が佐                     
 々木に教えろと・・・。この男は父であり、間夫・・・。

男  時の流れには逆らえぬ。それが世の定め。時を同じゅうして
 この備前の藤戸に、このように縁の人が合間見えるのも定め。

女  定め。所詮親娘と言えども男と女・・・。多情多淫、あがな
 えない定め。かの待賢門院様が、あの艶姿この世にあらずと言わ
                  
 れた美貌の持ち主のかたが、四十二歳で庖蒼に罹り二目と見られ
 ぬお顔に・・・。それも又運命・・・。

男1  言われるな。

女  みんな定め・・・。

男  わからぬのも又運命・・・。

女1の声  みんな死ぬ。この世に生まれし者どもよ、味わうがい
 い。苦しみを・・・。生きる、老いる、病の、そして、死の苦し
 みを・・・。


          女1の声が流れる。


          祇園精舎の鐘のこえ

          諸行無常の響きあり

          娑羅双樹の花の色

          盛者必滅の理をあらわす

          おごれるものは久しからず

          ただ春の夢のごとし

          たけきものはついには滅びぬ

          ひとへに風の前のちりのごとし

          男1それに倣う。

          男、女 経を読みはじめる。

          男1 真言の読経を始める。

          四人の声荘厳にして静寂なり。

          バックの水が落ちる音はだんだんと大きくな
          り読経にかぶさっていく。

          舞台明かり西上に移り、声と水音のみ続くな
          り。
                        
男1  平家は滅び、源氏も露のごとし。人の世夢の毎しか。

    花みれば そのいわれとは なけれども

    心のうちでくるしかりけり


                 間

          しばらくして別の男現れ一礼す。

男3 藤戸は母親が子を殺された恨みを綴った謡。平家物語では

 合戦の模様が述べられるにすぎません。           
  この作者はここで何を言わんとしているのでございましょうか   
 。埒もない戯言を・・・。         
                
 時代の記述というものは時の風に糾合し、作られたものが多く、
 あの正調藤戸にしてもその時代の権力者が都合よくこしらえたも
 の。と見るべきでしょう。

  平家の姿を時の幕府と仏教主流が誰かに書かし、目の不自由な
 琵琶法師に語らせ、より真実に近いものにいたしたのでございま
 しょう。耳なし芳一、生業を語りべとし、口承文学を残して
 行きました。後に出てくるごぜも多くの語りを披露することを生

 業にし、全国を旅しております。

  こうして、身体に不自由であった人たちの職業として、識字が
 全国に広まるまで続いたのです。

  所詮愚かで悲しみの器の人間、愚かしいことを考えるものです
 。そこがまたいとおしくもありますが・・・。


                  溶暗

                  
藤原璋子(待賢門院)

崇徳
 
 後三条  白河  堀河  鳥羽 後白河 三条 六条
高倉 
近衛 以仁王
            
      祇園女御 藤原得子   

 高倉          
安徳
    清盛 平徳子
                 



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